前回の記事でvulnerability(バルネラビリティ)の意味を辞書で引いたことについて書きました。
その記事にて、グレイソン・ペリー『男らしさの終焉』での記述についても言及するつもりでした。しかし、こちらは翻訳版があり、別の記事として書いた方が良さそうでしたので、本記事にて書かせていただきます。
まさに、男性にとってvulnerability(バルネラビリティ)の可能性を感じさせる文章です。
グレイソン・ペリー『男らしさの終焉』でのvulnerability(バルネラビリティ)
男らしさの終焉 | 動く出版社 フィルムアート社166ページより*1。
ソーシャルワークの研究者であるブレネー・ブラウンは、TEDで「傷つく心の力」という素晴らしいトークを行った。グーグルで「傷つく心(vulnerability)」を検索すると、最初のページに彼女が表示される。ブラウンによると、最も充実した人間関係をうまく築いているのは、心が傷つくリスクを冒し、自分の弱さと失敗、つまり自分の弱さの根底にあるものをさらけ出せる人だという。他人に自分を開いているのだ。
166ページより。
このような人たちには、ありのままの自分を見せる勇気がある。私たちが他者と良好な関係を築くには、本当の自分でいなくてはいけない。自分の感情をよく理解し、その感情が伝わる態度をとる必要があるのだ。
169~170ページより。
傷つきやすさの重要性は強調してもしきれない。男性の未来に幸福が訪れるかどうかは、傷つきやすさの扱い方にかかっているのだ。傷つきやすさのイメージと感情のイメージを変えよう。傷つきやすい男性は変ではない。彼は傷つくことに開かれているが、愛することにも開かれている。健全な心だと思う。怒りや、不安や悲しみを押しとどめない人間は、より喜びを感じ、より親密な関係をつくることができるのである。
男性にとってvulnerability(バルネラビリティ)の可能性を感じさせる文章
良い文章だな、と私は感じました。
男性にとってvulnerability(バルネラビリティ)が「どのように重要なのか」「なぜ重要なのか」を説明する際の材料として適していると言えます。
特に私が注目したいのは、大きく以下の2点です。
- 心が傷つくリスクを冒し
- このような人たちには、ありのままの自分を見せる勇気がある。
ここは、本ブログの前回の記事と同じように、vulnerability(バルネラビリティ)を「勇気」と関連付けています。
ありのままの自分をさらけ出すことには、リスクが伴います。
相手がそれを受け容れてくれるかもしれないし、逆に拒絶をしたり、その弱さにつけ込んで攻撃的な態度を取ってくるかもしれません。
しかし、自分の弱さを見せられる人は、結果がわからないとしても、敢えて「自分の弱さを見せる選択」ができる人、ということになります。
そういう人たちが持っている心の特徴を何と呼ぶか。
それは、「勇気」ではないでしょうか。
私は、前回の記事を書くにあたって辞書を引いた時に、自分の弱さを他人に見せるようにしよう、と感じました。
そして、今回、上記のペリーの文章を読んで、その思いをさらに強くすることとなりました。
- 傷つきやすさの重要性は強調してもしきれない。男性の未来に幸福が訪れるかどうかは、傷つきやすさの扱い方にかかっているのだ。
- 彼は傷つくことに開かれているが、愛することにも開かれている。
こちらは、vulnerability(バルネラビリティ)に対してペリーの見解を示している箇所と言えるでしょう。
ここで、上記の1文目の「傷つきやすさ」を「vulnerability(バルネラビリティ)」に置き換えると、以下となります。
- vulnerability(バルネラビリティ)の重要性は強調してもしきれない。
- 男性の未来に幸福が訪れるかどうかは、vulnerability(バルネラビリティ)の扱い方にかかっているのだ。
vulnerability(バルネラビリティ)は非常に重要であり、男性の未来に幸福が訪れるかどうかはその扱い方にかかっている
そして、男性がvulnerability(バルネラビリティ)を適切に持つことは、愛することに開かれるということを意味する。
vulnerability(バルネラビリティ)について、是非とも、もっと深く考えた方が良いですね。
そして、もちろん、「vulnerability(バルネラビリティ)が大事だ」と言うだけではなく、実際に「他人に弱さを見せる」「自分の弱さを認める」を行動として実行することが重要です。
この点に関しては、リーダーシップの発揮と同じことでしょう。
「リーダーシップについて理解する」ことと「リーダーシップを身につける」こととは違う。
このことは、リーダーシップについて話したり聞いたりする過程で、何度も耳にしてきました。
「vulnerability(バルネラビリティ)について理解する」ことと「vulnerability(バルネラビリティ)を身につける」こととは違う。
この点については、リーダーシップもvulnerability(バルネラビリティ)も同じである、と言えるのではないでしょうか。
グレイソン・ペリー『男らしさの終焉』の書籍について
著者のグレイソン・ペリーはアーティストです。
その他、テレビ番組の司会者も担当しているようです。
文章を読んでいて、ウィットに富むというか、時々にシニカルな表現を織り交ぜてくる、ということが印象に残りました。
出版者には詳しくはないのですが、アーティストが書いた本だからフィリムアート社から翻訳が出されたのかな、と感じられました。
本の中身にもペリーが描いたイラストが掲載されていて、「アーティストが書いた本」の良さがとても醸し出されています。
なお、訳者の小磯洋光さんは、文学の翻訳をされている方のようです。
こちらの書籍は、マスキュリニティや男性論の分野の他の書籍とは少し違った雰囲気が感じられました。
それは、著者がアーティストであり、その特徴が生かされているから、ということが理由なのだと私は捉えています。
お読み下さり、どうもありがとうございました。
*1:ブレネー・ブラウンのTEDトーク「傷つく心の力」のリンクは Brené Brown: The power of vulnerability | TED Talk です。